「ん~・・・」
カーテンの隙間から朝陽がさしこんでいる。 その眩しさを瞼に感じ美樹は目を覚ました。
「おはよう、小鳥さん。」
窓の外でさえずるすずめにベッドの中から挨拶をする。 すずめは、そんな美樹の挨拶を無視し、青い空に飛び立っていった。
「もう、すずめさんたら意地悪ね!」
美樹は頬を少し膨らませる。 身を起こし冷たい床の上に足を置く。
「ばあや!ばあや!ばあやはいないの!?」
美樹の声だけが部屋に響く。 ばあやなどいない。 わかりきっているのに、朝、一度ばあやを呼ばなければ気がすまない。
「やっぱり、いないわ・・・。」
可愛らしいため息をひとつつく。 それと同時に美樹のお腹がキュルルと鳴った。
「私ったら昨日の夜御飯を食べてから何も食べていなかったわ。」
普通、そうである。 晩ご飯の後は、たいてい朝ご飯まで時間があく。
「ばあや!お腹が空いたわ!カレーを持ってきてちょうだい!」
だから、ばあやなどいないと言っているのに。 美樹はどうしても、ばあやを呼んでしまう。
「ばあや!シャービックもお願い!」
・・・仕方がないな。「ばあや」になって登場してあげよう。
「お嬢様、ばあやでございます。」
美樹は怪訝な顔をする。
「誰?」
「だから、ばあやでございますよ。」
私は腰をかがめながら、ばあやっぽく言ってみる。 美樹はジッと私を見つめながら言い放った。
「ばあやなんていないのよっ!」
なんだ、わかってんじゃん。 じゃあ、「ばあや」になって登場した私の立場は・・・
「美樹ちゃん、あたしあたし!実は星河舞です!」
自己紹介してみる。
「・・・誰?」 「いや、だから・・・あのぉ、もと柳原みわという名前の 声優で美樹ちゃんと仲が良かった・・・」
そこまで言うとやっと、美樹は目を輝かせた。
「あぁ!!あの歌が下手な!?」 「お互いさまでしょっっっ!!」
いやいや,美樹ちゃんの方が私より遥かに上手。 私が芦ノ湖の底レベルだとすると、美樹ちゃんは芦ノ湖の水面レベル。 ちなみにこのレベルのトップは箱根山の頂上。 十年以上前、私たちはとあるゲームのエンディングテーマ曲をデュエットした。 たぶん、今聴くと笑ってしまうくらいドンびきな下手さ加減。 けれど何だろう。 美樹ちゃんの歌声は、北海道チョコポテトのような味わいがある。 どうにもクセになってしまうのだ。
美樹ちゃんと歌ったのはこの時だけではない。 関さんプロデュースの、名前は恥ずかしくて言えないが、 三人トリオで一緒に歌ったことがある。 この時のレコーディングで私は、「美樹ちゃん、下手だけど上手い!!」 と、感動したのを覚えている。
同年代で似たような時期に売り出された美樹ちゃんと私。 私からするとライバルだった美樹ちゃん。 けれどあの時、私の中で「美樹ちゃんにはかなわない!」 と白旗を揚げた。
美樹ちゃんと、先日事務所で8年ぶりくらいに会った。 相変わらず一線で頑張っている美樹ちゃん。 久々の再会に、事務所のお母さん的存在である中西さんが気を利かせてくれて、 美樹ちゃんが最近歌ったという曲を大音量で流してくれた。 変わらない歌唱力! 私はあなたの歌唱力の虜です! また、デュエットさせてください! なんか、面白いことしましょうよ! 的をえているようで、実は外しているところとか、大好きだ!
私の中で美樹ちゃんの印象は昔も今も変わっていない。 変わったところはパーマをかけたところくらい。
長沢美樹・・・。
貧乏、大臣、おお大臣、貧乏、大臣、おお大臣、びんぼう・・・・ 美樹ちゃんあんた大臣だ!(あれ?おお大臣?)
ではまた! 星河舞でした! |